はじめまして。松樟太郎と申します。樟太郎と書いて「くすたろう」と読みます。

 文字や言語についての本をミシマ社から2冊ほど出しております。

 最初に告白しておかねばならないのですが、私はいわゆる「阪神タイガースファン」ではありません。

 どちらかというと、「横浜DeNAベイスターズ」のファンだったりします。

 そんな私がなぜ、おめおめとこの場に出てきたかというと、本年度の阪神チームを率いるミシマ監督から「他球団ファンから見た阪神像を知りたい」「関西メディアはみな阪神びいきだから、外部からの目で忌憚なき意見を」と言われ、ならば末席を汚す意味も少しはあるのではないか……と思った次第です。

 最初は阪神ファンのフリをして書こうかとも思ったのですが、もしそんなことをして途中でバレたら、ケツの穴に手を突っ込まれて歯をガタガタ言わされたり、実家がヒノキ風呂であることを大声でバラされても文句は言えません……。なので最初に謝っておきます。すいません。私がユダです。

魅惑と情熱のサイドスロー

 子供の頃、どこのファンということもなく野球全般が好きで、好きな選手のチームバラバラでした。当時はまさに野球全体をボーダレスに愛していたのであり、人はひょっとすると成長するごとに、視野が狭くなる生き物なのかもしれません。

 中でも好きな選手が二人いました。阪神タイガース小林繁投手と、西武ライオンズ永射保投手です。

 オールファンの方なら共通点がすぐにおわかりでしょう。二人とも飲食店経営をしていた……ではなく、投げ方が極めて独特なのです。

 ちょっとアンダー気味に、独特の「タメ」を経て鋭い球を投げ込む「情熱のサイドスロー」小林投手。やはりサイドから、まるで海賊界の頂点を狙う某人物のごとく「腕が伸びるのか?」というほどあらぬ位置からボールリリースされる「ピンクサウスポー」永射投手。

 どちらも震えるほどカッコよく、そりゃあ何度も真似しました。特に小林投手のカクカクとしたストップモーションのような動きは完コピしたと言っても過言ではありません。

 もっとも、私のモノマネは徐々にロボットダンスのごとく過剰にカクカクするようになり、最近YouTubeで改めて小林投手の映像を見直してみたら、「なんてスムーズフォームなんだ」と逆にびっくりしました。

 ちなみに同時に永射投手の映像も見てみたら、こちらはこちらでほぼ記憶通りでびっくりしました。永射投手のスナックサウスポー」にて、ご本人の前でモノマネを披露できなかったことが、つくづく悔やまれます。

サイドなのかアンダーなのか、青柳投手のモヤモヤ投法

 さて、そんな私ですから、青柳晃洋投手の出現には興奮しました。サイドスローなんだかアンダースローなんだかわからないあのモヤモヤする投げ方。「おお、小林投手が現代に復活した」と思ったものです。

 後で知ったのですが、ドラフト指名後のあいさつでも、小林投手を意識した発言をしていたようですね。「小林投手のようなGキラーになりたい」と。

 そして、そんな青柳投手はみるみる成長し、何の因果かGキラーではなくBキラーとなり、ベイスターズ打線を完膚なきまでに打ちのめしていきました。いや、ここ数年のベイスターズはまったくもってタイガースに歯が立たず、青柳投手に限らずあらゆる投手に小動物のごとく軽くひねられているのですが、それでも青柳投手に抑えられたときは、「いいもの見たし、まあいいか」と思えます。

 なぜだかよくわからないのですが、好き嫌いとは別に、抑えられて腹が立つ投手と腹が立たない投手がいます。藤浪投手に抑えられるとはらわたが煮えくり返る思いがしますが(ごめん藤浪君)、岩田投手ならなぜか許せます。少し前なら、下柳投手や久保田投手に抑えられてもむしろニヤニヤしていたくらいですが、それはまったく別の理由かもしれません。メッセンジャー投手にもさんざん抑えられましたが、横浜が誇る「家系ラーメン好き」と知ってからはあまり腹が立たなくなりました。人の印象など身勝手なものです。ごめん藤浪君。

「なぜここで止まる?」というほどのタメが欲しい

 小林投手に話を戻します。

 私が物心ついたころ、すでに小林投手はタテジマの似合うタイガースの選手であり、巨人時代はまったく記憶にありません。子供のことですから、小林投手がタイガースに移籍した複雑な事情については知りませんでしたし、知ったとしてもあまり関心を持たなかったと思います。小林投手はあくまで「カクカクしたフォームがカッコいい人」。

 大人になってから、小林投手のカッコよさを再認識した出来事がありました。といっても、江川氏と共演したあの有名なCMのことではありません。

 私の知り合いのライターさんに、「K」という文字と自分のイニシャルの文字を組み合わせて、個人事務所名にしている方がいます。ある時、「K」の由来を聞くと、なんと「小林投手のK」とのこと。その方は以前、小林投手に大変お世話になったことがあり、その恩義から「K」の文字を使わせてもらっているとのことでした。

 この一件だけで、会ったこともない小林投手の人柄が伝わってくるような気がしました。きっと投げ方だけでなく、生き方もカッコいい人だったのだろうな、と。

 そんなカッコいい変則投手(この言い方は好まれないかもしれませんが)の系譜を、ぜひ青柳投手には引き継いでもらいたいと思うのです。

 ただ、小林投手にあって青柳投手にないものがあります。それはあの独特の「カクカク感」。青柳投手のフォームは、初動で少しタメを作ることはあっても、基本的にはスムーズに流れるようにリリースします。なぜか妙なところで「カクッ」となる小林投手のように、青柳投手のフォームにもどこかに「タメ」が欲しい。それもできれば、「なぜそこで溜める?」と誰もが突っ込みたくなるような、奇妙奇天烈な箇所で。

 ここ数年安定したピッチングを見せ、今年も早速ベイスターズを7回無失点の好投で叩きのめした青柳投手。そんな青柳投手の次の望みは、登板時の晴天および「2ケタ勝利」のはず。そのためにも、8年連続2ケタ勝利を挙げた「レジェンド」から、ぜひその魅惑の「カクカク」を引き継いでもらいたいと思います。

 ちなみに、青柳投手のフォームを魔改造してタイガースの戦力ダウンを図ろうなどという意図はこれっぽっちもございません。念のため。

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(松 樟太郎)

青柳晃洋


(出典 news.nicovideo.jp)

変則投手は物珍しさがあり、1巡目は戸惑いがちだが、2巡目で捕らえられる印象。その為2~3シーズン位しか通用しないイメージがある。だが青柳選手は息の長い選手になってほしいです。他球団ファンですが、あの投球法は好きです。 

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